闇の夜は 苦しきものを いつしかと 我が待つ月も 早も照らぬか
月詠み『こんな命がなければ』https://youtu.be/YaTv86-1-pY

 世界が、私たち二人だけになったような、空虚な場所。
 白い花が辺り一面を覆う程に埋め尽くし、あたかも雪原のようになっている。
 咲き乱れるそれは彼女が好きだった花、オーニソガラム・ウンベラタム。別名ベツレヘムの星。
 〝純粋〟や〝才能〟といった花言葉を持つその花は、まるで彼女そのものだ。
 分厚い雲の隙間から僅かに太陽の光が差しているような、あるいは夜中の人工的な光のような、昼か夜かさえ曖昧な光景。
 現実感を欠いたその場所で向かい合う私と彼女。私たちは二人とも高校生の頃の姿をしていた。大人びた印象だった彼女がこんなにもまだうら若い少女だったのだと改めて思い知る。
 彼女は何も言わずに静かに私の目を見ている。その目はあの頃と同じ、全てを見透かす冷たい水晶のような瞳と強くて優しい眼差し。
 私は茫然として口を噤んでしまっていた。
 早く何か言わないといけない。時間はもう残されていない。そんな気がしているのに。
 だが、積もり積もったこの感情を、これまでの後悔を、どう形にすればいいのか、どう伝えればいいのか、私にはわからなかった。
 感謝の言葉も、謝罪の言葉も、どれも正しくもあるし間違いでもある気がした。言いたいことは沢山あるのに、何も言えない。
 柔らかな風が制服や髪、足元の花達をそっと揺らす。
 滲む視界。
 言い表せられない感情が形となって、頬を通っていく。泣かないようにと思えば思う程に、堪えようと思う程に、それを抑えることができずに零れていく。
 彼女はそんな私を安心させるように優しく微笑んだ。

月詠み 1st mini Album『欠けた心象、世のよすが』
https://tsukuyomi.lnk.to/kaketa_CD